看護師のプリセプター制度の解説と現役看護師の私の体験談

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

プリセプター制度とは日本の病院の多くで採用されている新人教育の制度で、プリセプターと呼ばれる若手の先輩看護師が、プリセプティという新人の指導をマンツーマンで行い、看護技術の基礎から雑用、病院のシステム、社会人としてのマナーなどありとあらゆる指導する制度です。看護師は看護学校で、基本的な看護技術の習得や、看護師としての心得、考え方、病気の仕組みや治療法を学び、身に着けていきますが、卒業してすぐに看護の仕事がこなせるわけではありません。

病院に就職して先輩に1から教えてもらって、少しずつ看護師として仕事ができるようになります。また、大半の看護師が勤めるのは病院ですが、病院という職場は命や死と向き合う職場です。新人看護師は病院で死に直面しに、ショックを受けることも多いです。このような精神的にも技術的にも未熟な新人看護師を支えるのが、プリセプターの役割になります。

昔、テレビで放送されていた「ナースのお仕事」というドラマの主人公の新人看護師と先輩の看護師の関係がちょうど、このプリセプター制度のプリセプティとプリセプターにあたります。プリセプターをする若手看護師は、大体3~4年目で経験することが多いですが、病院によっては2年目で行うこともありますし、5年以上の経験がないとプリセプターになれないこともあります。近年問題になっている“新人看護師の離職率の高さ”のための改善策の一つであり、原因の一つでもあると思います。プリセプター制度はマンツーマンであるため、プリセプターとプリセプティの相性が重要になってきます。相性がいい場合、離職率の低下につながり、反対に相性が悪いい場合、すぐに退職し“新人看護師の離職率の上昇”に拍車をかけてしまうことになります。

このプリセプター制度は約20年かけて普及してきた制度ですが、様々なリスクがあるため、すでに廃止している病院もあります。今回はこのプリセプター制度について解説を行います。

プリセプター制度のメリット・デメリット

この制度のメリットは、マンツーマンで指導を行うため、一人一人の個性や技術の習得度合いによって指導を行うことができます。技術面だけでなく、精神面でのフォローも行うことができ、何かあったときにすぐに頼る人がいて、新人であるプリセプティにとっては心強い制度であります。

また、新人であるプリセプティが成長するだけでなく、指導する側のプリセプターも、新人指導を通して成長することができます。プリセプターをする若手~中堅の看護師は日々の業務に慣れてきて、中たるみのようになり、目標の喪失、看護の質の低下や医療事故につながることもあります。

しかしプリセプターを行うには、まず自分がプリセプティの手本になるように基本に忠実に、丁寧に看護を提供する必要があります。そのように気をつけていことで、自然と中だるみの時期を新人の時のように、緊張感をもって過ごすことができます。

では、反対にデメリットは何があるでしょうか?

指導を行うプリセプターの経験年数が2~4年の場合、まだ自分のことで精いっぱいであることがほとんどです。やっと日々の業務に慣れてきて、余裕ができ、これから自分なりの看護を提供したい、と試行錯誤を始める時期でもあります。

この時期に新人のプリセプターを経験すると、責任が重すぎてしまうことや、自分の看護ができないことへのフラストレーションが高まることもあります。看護研究や夜勤のリーダー業務など仕事が多くなる中で、新人指導を行うとオーバーワークにつながることになります。

また、教育を一生懸命しても育たない(やめてしまう)ことがあるとも、プリセプターの看護師のモチベーションの低下につながります。以上のようなことが起こると、看護師としての働く楽しみを感じることがなくなり、看護師をやめるきっかけになることもあります。このようなことが起こると、“新人看護師の離職率の高さ”だけでなく“看護師全体の離職率の高さ”にも影響を与えかねません。このプリセプター制度は教わる側のプリセプティも、教える側のプリセプターも看護師をやめてしまうリスクのある制度でもあります。

プリセプター制度の体験談

私は国家試験合格後、地方の公立病院に就職しました。その病院には付属の看護学校があり、その公立病院の8割の看護師が付属の看護学校の出身でした。そのため、1~2学年の先輩や後輩は面識があったりすることがありました。私の勤めていた病院は3年目以上の看護師がプリセプターとして新人指導を行っていましたので、学校で見かけていた先輩のAさんが、私のプリセプターとして、指導に当たってくれることになっていました。

私は同期のⅭと一緒に、小児科と一般病棟の混合病棟に配属され、そのCのプリセプターも同じ学校の先輩のBさんで、Aさんともとても仲が良かったです。面識のある先輩だったのでうれしく安心して、仕事に就きました。Aさんとは技術の振り返りと称して、仕事終わりにご飯を食べに行くことや、飲みに行くこともよくありました。入職してすぐは、覚えることも多く、慣れない夜勤や、気難しい患者様とのかかわり方に悩み、ストレスフルな日々を過ごしていました。しかし、プリセプターとプリセプティのみんなが仲良しだったので、Aさん、Bさん、C,私の4人でご飯に行くこともたびたびありとても楽しい時間を過ごしました。その時間は私にとって、癒しの時間であり、とても楽しい時間でした。

ほかの病棟の同期の話では、気難しい先輩がプリセプターになり、やめたい・・・。と話しているのをよく聞いていたので、私は“いいプリセプターに当たったな、ラッキー”と思っていました。夜勤にも少しずつ慣れてきた、入職4か月後の8月の振り返りで、Aさんとご飯に行った時のことでした。看護技術の振り返りもほどほどに行って、プライベートな話になりました。やりにくい先輩や先生はいないか、困っていることはないか、という話をしたり、彼氏とはどうなかなど、仕事以外の話もしたりしました。

私の話しばかりではなくAさんもたくさん話してくれました。そこでAさんは実は私の同期のCのことをあまりよく思っていない、という話しをされました。仲良く4人で出かけたりしていたので、少し驚きましたが、確かに私も少しCのことが苦手だったので、親近感がわきました。親近感が沸いたことで、困ったらAさんに何でも相談できるという安心感を抱いていました。独り立ちの夜勤もこなすようになって、お互いに時間が合わず、そのころから、ご飯に行ったりすることも減っていきました。私の勤めていた病院はチーム看護を行っていました。プリセプターはプリセプティのフォローを行うために、受け持ちのプリセプティと同じチームに所属することが基本でしたが、私の病棟では新生児室もあったため、ほかの病棟に比べチーム数が多く、1チーム当たりの看護師の人数が少なく、AさんもBさんも受け持ちの新人看護師である、プリセプティと違うチームに所属していました。

そのため私や同期のCが独り立ちしてからは、休みが合うことがなく、4人で食事に行くことはなくなりました。それでも、プライベートな話をして、親近感を感じていたAさんとの絆を実感していた私は、安心して仕事をしていました。ある日、職場に行くとAさん、Bさん、Cの3人がひそひそと話していました。私抜きで、3人で旅行に行く相談をしていたそうです。私は少し寂しかったですが、社会人にもなって仲間外れなんてことを気にしたくなかったので、気にしていませんでした。それから、私以外の3人はいろんなところに行ったり、食事をしたりしていたそうです。だんだん私とAさんとの距離も空くようになり、食事にもいかず、病棟でも必要最低の会話しかしなくなっていました。

2か月ごとの振り返りが決められていましたが、それも行わなくなっていました。プリセプターのAさんと距離ができた私は、病棟でも浮いた存在になっていきました。小児科でしたので、ほかの病棟とは異なり、頻度の少ない特殊な処置あったり、独特の点滴の固定方法だったり、経験しなければ上達しない技術がたくさんありましたが、Aさんとの距離が開いていた私は、処置があっても声をかけてもらうことも少なく、同期のCとの技術の差は大きくなるばかりでした。

Aさんとの関係悪化だけがCとの技術の差につながったわけではありません。私も自分から学ぼうとする姿勢が足りなかったと思います。私の看護技術の習得の遅さや、技術の振り返りができていないことで、私とAさんは病棟の師長さんからも注意を受けました。しかしその後もAさんと私の関係は改善はすることなく、1年目も半年が過ぎました。

同期のCは様々な看護技術を身に着け、とても同期とは思えない働きぶりで、周りに親しまれ、溶け込んでいました。一方私は浮いた存在のまま、十分に看護技術を身に着けられないでいました。

年末の調整にバタついた病棟で、私は驚きの事実を耳にすることになりました。

Aさんは同じ病棟に勤務する小児科の先生(既婚者)と付き合っていました。しかし、その先生が新人の私を気遣って声をかけていたのが気に食わなかったことで、私との距離を置き、先生やスタッフ、先輩や同期に私の悪口や、あることないこと、でたらめばかりを言い、私が嫌われて孤立するように働きかけていたそうです。私へのいじめや、既婚者である先生との不倫が原因で、Aさんは病院をやめることになりました。まだ新人で看護技術も十分に行えない私は、プリセプターを失ってしまうことになりました。

私は幸い、いじめや他人の評価が気になるタイプではなかったので、その後も仕事を続けていくことができましたが、やはり、頼るべき人がいなくなったこと、頼っていた人に裏切られるような形になったことを、とても悲しく思っていました。それまでプリセプターからいじめを受けてやめていった、新人看護師は少なくありませんでした。しかし私の場合、プリセプターがやめてしまうレアケースでしたので、詳しい状況を知らない他の病棟のスタッフからはプリセプターともめた、癖のある新人と認識され、私は病院内でも有名な看護師になってしまいました。

プリセプターであるAさんがやめてから、病院に居づらくなった私は、病院を退職することを考えていました。しかし、必死に止めてくださった師長さんや先輩たち、先生たちのおかげで、なんとか無事に2年目になることができました。2年目になった私は、看護研究の作成と同時に、翌年に控えていたプリセプターの準備のために、サブのプリセプターとして新人指導につくことになりました。もともと人に教えたりすることは好きだったので、まじめに勉強したり、翌年に控えたプリセプターのために準備をしていました。サブのプリセプターの役割として、プリセプティの精神的フォローとプリセプターとの情報共有がありました。

病棟の体制的に同じチームにプリセプターを確保できないことへの解決策として、このような対策を取られるようになりました。私の時にこのようにしてくれていたらば・・・。と思っていました。しかし、受け持ちの新人の看護師が私のようにつらい思いを経験しないようにしようと、一生懸命頑張りました。私の担当する新人看護師は、軽度の聴覚障害のあるDさんでした。Dさんは補聴器を使用して日常会話は問題なくすることができていました。技術面ではメインのプリセプターが中心になって病棟全体で、技術が習得できるように声をかけたりしていました。

精神面でのフォローが私の役割だったので、困っていることはないか、不安はないかなど、聞いていきました。彼女はやはり、聴覚のことが心配に感じていたようでした。彼女の聴覚障害は軽度だったので、補聴器をして入れば日常会話は成立していました。

しかし、小さなアラーム音など気づけないかもしれないと、不安を感じていました。また、聴診器を使って聴診を行うときは、補聴器をいったん外すのですが、そのまま外したまま、業務を続けていたので、周囲のスタッフも不安を感じていました。

私は、日々の会話はできていること、私たちも注意を払っていないと、小さなアラーム音は聞き逃すことがあること、だから、聴覚障害関係なく注意をしておく必要があると伝え、補聴器は聴診後速やかに装着するように指導しました。

Dさんへの指導と同時に、周囲の先輩スタッフに、Dさんがどのようなことに不安を感じているのか、補聴器をし忘れていたら、声をかけるようにしてほしいことや、Dさんへも補聴器を速やかに装着するように指導したことを伝え、Dさんが孤立しないように周囲にも働きかけていました。

自分が新人時代に感じていた辛さを、Dさんが感じることがないように、周囲に働きかけることが簡単なことではありませんでした。メインとなるプリセプターと勤務終了後遅くまで話し合いをしたり、年配の看護師がDさんとの夜勤を拒否するようになった時は、師長、メインプリセプターと私で、その年配の看護師の説得をしたり、時間外労働がとても多くなりました。

それに加えて看護研究も進めなければならなく、私は完全にオーバーワークの状態でした。新人指導も看護研究も中途半端になっていたのですが、それでもプリセプターとして役割を果たしたい一心で、時間外労働をこなしていました。

そんなオーバーワークの私はついに、体をこわし、入院することになってしましました。過労による睡眠不足と、トイレを我慢していたことから腎盂腎炎にかかってしましました。幸いすぐに完治して、2週間で職場復帰することになったのですが、サブのプリセプターとして行っていたDさんの指導からは外されることになり、看護研究に専念するように言われました。

しかし、精神的なフォローをしたい気持ちは変わらず持っていたので、できる限りDさんに声をかけ、困ったことはないか気にかけるようにしていました。そのようにプリセプターとして新人を指導する準備をしていましたが、私が経験してきたことや、ほかの病棟でもトラブルが起き、私が3年目を迎える年から、プリセプターは5年目以上のベテランが担当するように、病院の規則が変わりました。私は結局メインでのプリセプターは経験せず4年目の夏に病院を退職することになりました。退職して5年以上経過しましたが、Dさんとは今でもときどき会って食事をするような関係です。私がAさんとプリセプター、プリセプティとしていい関係を築けていれば、今の私とDさんのように、今でも食事に行ったりしていたのかな・・・。と考えたりもしています。

まとめ

プリセプター制度は、個人に合わせたきめ細かい指導が行えること、精神的フォローのしやすさなどメリットのたくさんありますが、プリセプターとプリセプティの相性が重要になってきます。

プリセプターとプリセプティの相性が悪い場合、職場環境の悪化やいじめにつながります。そしてプリセプティは頼るところをなくし、最悪、退職してしまします。また、プリセプターも経験未熟な2年目~4年目が行うとオーバーワークや、指導不足につながってしまいます。若手では責任を負うこともできず、荷が重いことも多いです。

しっかりと経験を積んだ、余裕ある、中堅の看護師が行うことが大切かと思います。また、プリセプター、プリセプティのペアを決める際、相性は大丈夫か、もし何かあった場合の対応はどうするのか、などプリセプター制度には注意点も多々あります。

また、看護師として優秀な人が、プリセプターとして優秀な人であるとは限りません。質の高い看護を提供できることと、人への指導がうまくできることは、まったく関係のないことですので、看護師として優秀でもプリセプターとして優秀だとは言い切れません。

また、逆もしかりで、要領よい立ち回ることができ、看護の質としては、決して高くない看護を提供する人が、うまく新人とかかわっていい指導ができることもあります。

前者の場合、人に指導することより、自分でする方が楽によい看護が提供できるので一人で行ってしまうこともあります。結果、プリセプティは看護技術を身に着けることが出来ないことになります。後者の場合、看護技術面では十分に習得できるかもしれませんが、プリセプターが手を抜いていることがわかると、そのプリセプターへの不信感を感じることになります。

また、教えてもらう新人看護師のプリセプティにも向き、不向きがあると思います。何も分からないからといって、教えてもらうのを待ってるだけでは、学ぶ意欲が感じられず、やる気のない新人と思われることもあります。新人看護師も事前に自分からどんどん意欲的に学んでいく姿勢が大切だと、認識する必要もあります。

いろんな教育方法がある中で、このプリセプター制度はとてもメジャーな制度です。しかし、普及しているからといって、マニュアルだけ整えて、行っているだけでは、プリセプター制度のいいところは、薄れてしまします。

新人指導を行う上で、何が大事か?教える側も教わる側も、互いを思いやってかかわることが必要をなってきます。しかし、看護師として働きはじめて余裕のない時期にプリセプターの顔色をうかがって仕事をすることはとても大変です。

1日も早く、新人看護師や先輩看護師が気持ちよく働き、看護師として大事なことが定着する社会になることを祈っています。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る